100話:難聴の苦悩、心の焦燥 [クラシック]

Beethoven◇Thoughtful

Beethoven◇Thoughtful


「僕は何回となく創造主を呪った。考えてもみてくれ、僕の一番大切な部分である聴覚がだいぶ弱まっているのだ」

ベートーベンが友人に宛てた手紙の一節です。

「6年このかた不治の病に侵され、つまらぬ医師たちによりいっそう病を重くされている」

これは1802年ごろ書かれたと推定される遺書のなかにありました。



ベートーヴェン◇ピアノソナタ第8番「悲愴」



ベートーベンの代表的なソナタに「月光」「熱情」「テンペスト」「ワルトシュタイン」「告別」などがありますが、この「悲愴」もまさにそれであり、ピアノ3大ソナタとしても挙げられています。

このソナタは1798年から翌年にかけて作られました。まさにベートーベンの難聴が始まった時期でもあります。またこの曲の「グランド・ソナタ・パテティーク」という標題は彼自身の命名する数少ない作品でもありました。そしてこれが、彼に苦難を与えた「運命」への作曲家としての答えでもあるのです。

友人ヴェーゲラーへの手紙の中の一節~「できることなら、僕は運命を相手に戦い、勝ちたい」



エルグレコ◇キリストの苦悩


エルグレコ◇キリストの苦悩

エルグレコ(1541-1614)はスペイン出身、イタリア(ヴェネツィア・ローマ等)やスペインで活躍したマニエリスム最後にして最大の画家です。


さて、この作品は発表と同時に爆発的な人気を呼び、アカデミックな作品を重視するヴィーンの教師たちは、この型破りな作品を見ることを禁じたほどだったそうです。当時生徒だったモシュレスは密かに楽譜を手に入れ写譜したことが伝えられているとのこと。

第1楽章、冒頭の叩きつけるような感情の爆発のフォルテ・ピアノの和音で始まる主題同機の3回にわたる繰り返しは鬱積した情熱の吐露であり、つづく苦悩とそれからの脱出への願望を願うかのような楽想の進行は、まことに絶妙であり荘厳である。 (園田高弘 著)


この名曲は不幸にして重い病のおかげで生まれた作品ですが、もし彼が難聴に見舞わなければその後も求められるままに、人気作曲家としてサロン受けのする作品を書き続けていたかもしれません。苦難に追い詰められ乗り越えようとしたことが、彼に新しい自己発見と斬新な技法を可能にさせたのでしょう。こうして今日の作品の背景を改めて考えてみると今現在、私達のおかれているこの状況に通じるものがあるのではないでしょうか。

参考書籍:ベートーベンの生涯(青木 やよひ著)



演奏◇ピアノKempff ケンプ 悲愴 第1楽章  kumikopiano インフォメーション 
今日の1曲◇ベートーベン:ソナタ「月光」2楽章 より ピアノ:本間くみ子 録音スタジオ:ソフィアザールサロン yutubeに現在私自身の演奏を60曲アップしています 音楽と絵画の部屋 新エッセイです Chapter 5. ラフマニノフ:神秘とロマンス

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